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【この恋は、永遠だ】と、恋した誰もが、１度は必ず思うはずだ。
だが、空港で別れ離れになる２人を、目の当たりにし、俺は不覚にも思ってしまった。
永遠の恋など、本当は誰にも訪れないんじゃないか、と……。
無言で立ち去る友の背、彼の最愛の乙女の涙。
無情にもロビーに響く、搭乗を促すアナウンス。
立ちはだかる困難は、想いを成就するための糧となるのだろうか――。
神の手により、恋人達の恋は秤にかけられ、その刻を待つ。
手塚の背を見送ったのは、これで何度目だろうか。
そして、アイツを想って待つ乙女の涙を見たのも、何度目になるだろうか。
自宅の自室に戻った俺は、国際空港で見送った友との別れを思い返し、浅い溜息を吐く。
自分のことではないとはいえ、正直、親しい者を送り出す役目は、何度任されても慣れる事は無い。
しかも、手塚を見送る度に、傍らで涙ぐむ手塚の彼女である広瀬さんを見ると、さらに胸が痛んだ。
だからと言って、手塚を見送る役目を放棄することは出来ないのだが――。
部屋の時計の針は、すでに正午を過ぎる。
――手塚は今、どの辺りの空を飛んでいるんだろうか？
部屋の窓から青い空を見上げ、友へと思いを馳せた。
「……また、溜息なんですかぁ〜？」
――ドキッ。
すっかりと忘れていた存在を、心臓の跳ねる音と共に思い出す。
「え……っと、あれ？ 溜息なんかついてたか？」
俺は、とぼけた声を出してテーブルを挟んで座る自分の彼女へと問いかけた。
「ついてました〜！ すっごく、大きいのを！！」
俺の彼女・は、面白くなさそうな表情で腕組みをしてプイッと横を向く。
オイオイ、そんなに大きな溜息はついてないぞ？！
俺が気付いてないと思ってホラを吹いたな？
……まったく、ってヤツは。
相変わらず子供のような仕草をする彼女に、俺は苦笑いをして見せた。
「いつも手塚部長……じゃなかった、手塚先輩を見送りに行った大石先輩は、特大の溜息つくんだもん！ ……つまんないよ」
にささやかな不満を言われ、俺は項垂れながら首元を掻く。
「はは、申し訳ない。……アイツを見送ると、ちょっと考えたくなることがあってな」
手塚と広瀬さんは、とある合同学園祭を通して両想いになったカップルだ。
しかも、その付き合いの長さは、俺との付き合い以上になる。
あの堅物と言われる手塚を相手に、広瀬さんは良くついて行ってると思う。
手塚は悪いやつじゃないが、周りからは近寄りがたく思われることも多い。
そんな手塚の相手を女の子が務めるのは、結構骨が折れると俺は思う。
しかも、今や手塚は海外留学を経て、プロを目指す。
日本への帰国だって、３６５日ある内の数える程しかない。
「……淋しいだろうに、な」
１人日本で待つ身となる広瀬さんを思い、俺は床を見詰めてポツリと呟いた。
もしも、俺が手塚の立場で、が広瀬さんの立場だったら――。
……考えるだけでも、恐ろしい。
まず、俺はを１人で日本に置いておくことなど、心配過ぎて……絶対無理だ！
それから、の泣き虫が気になる。見送りに、英二達に来てもらっても、いつまでも泣いているかと思うと、空港のゲートをくぐるなんて出来ないだろう。
つくづく、俺はに甘いと改めて悟る。
俺は右手で、自分の額を押さえた。
自分で考えた事とはいえ、とんでもない事を想像してしまった。
……頭が痛い。
俺の目の前で黙っているが居ることを、またもや忘れ、物思いに耽ってしまった。
そのうち、絶対に怒るだろうな、のヤツ……。
恐る恐る、額を押さえている手の指先の隙間から、テーブルを挟んで座る を、そろりと見た。
「………………」
俺の予想に反したの表情。
怒るどころか、その真逆のような表情をしていた。
どこか困ったような、それでいて何故か淋しそうな顔。
何も語らない彼女の唇は、閉ざされたまま。
「…………？」
の顔を見ながら、俺は自分の額を押さえていた手をゆっくりと動かして外した。
「……そうだよ。待つのって……淋しいよ」
ポツリと呟いたの声は、どこか力なく、弱い響きを持つ。
広瀬さんの心中を察しての言葉だろうと、俺は思った。
がどんなにお転婆だと言っても、やはり女の子だ。
俺が思う女の子の気持ちよりも、彼女の考えのほうが的確だろう。
「な？ もそう思うだろう？ ……やっぱり淋しいよな、広瀬さん！」
俺はに同意を求めるように笑いかけ、話した。
「………………」
は俺の言葉を聞き、苦虫を噛み潰したような顔をする。
大きな瞳が瞬きもせず、俺の顔をじっと見ていた。
「……え？ 何かおかしな事を言ったか？」
俺は何か間違ったことでも言ったのかと思い、に尋ねた。
しかし、彼女は俺の言葉に慌てて首を振り、少し考え込むと静かに口を開く。
「い、いいえ……。広瀬先輩も、淋しいでしょうね……」
……広瀬さん、”も”？
俺は、の言葉に首を軽く傾げる。
広瀬さん”も”、ということは、他にも同じ思いをしている人物がいるということだよな？
それって…………。
やっぱり……手塚のこと、だよな！
あぁ、そうだろう！ 年に数回しか逢えないんだ……。
いくら手塚といえども、やはりアイツも淋しいだろうし、心配なこともあるだろう。
なんせ、毎回別れ際には、「静を頼む」って、俺に言うぐらいだしな！
「広瀬さんも、もちろん淋しいだろうけど、手塚も同じ気持ちだろうな」
「…………そう、ですね」
俺は、の言葉の意味を読んだ上で答えたはずなのに、彼女の反応は鈍い。の沈む表情に、広瀬さんが空港で手塚を見送る姿とだぶる様な気がした。
「あぁ。誰だって、そうだろ？ ……想う相手と離れるんだから当然だろう！」
テーブルを挟んで座るを見ながら、ややオーバーリアクションで話す自分を、どこか滑稽に感じていた。これではまるで、バツの悪いことを正当化しようとし、同意を求めているようだ。
少し眉を寄せた俺の顔を、覗き込むように上目遣いをしたが俺へと、話しかけてきた。
「……大石先輩は？」
「ん？ ……俺？」
「はい。大石先輩は、どう……なんですか？」
真剣な輝きを放つ大きな双眸が揺れる。
その瞳を見詰めた俺は、自分の意見を述べることを避けた。
その代わりに、同じ問いかけを彼女へとしてみる。
「……は、どうなんだ？」
笑って尋ねることなど、到底出来そうに無い緊迫する空気に、俺は居心地の悪さを感じていた。
喧嘩した訳じゃないのに、何でか冷えたような雰囲気。
ただ漠然と感じてしまう、不安――。
真っ直ぐに俺を捉えていた視線を外し、彷徨わせたが重々しく口を開く。
「私は…………」
少し息を吸い込み、はそれを止めた。
「……ど、どうした？」
どこか重い空気から解放されたい気持ちで、俺は焦りながら彼女に言葉を急かす。
やや躊躇いがちに瞼を伏せ気味にしたが、俺から顔を逸らした。
そして、彼女の唇からは、言葉が零れ落ちる。
「……は、離れて無くても淋しいです！」
「え……っ？！」
の一言に、俺は思わずテーブルに両手を着き身を乗り出し、大きな声で聞き返した。
「大石先輩に、いつも待たされる身になる人の気持ち……解るはず無い！」
強い口調で話したの言葉に、正直、俺は面食らった。
それと同時に、沸き起こる疑問と、微かな怒り。
「な、なんだよ……急に！」
「急なんかじゃないよ。いつも空港から帰ってきたら、『広瀬先輩が可哀想だ、淋しそうだ』って言うけど……」
俺の言葉に、即答する。
何か言いたげな大きな瞳は、俺を責めるかのように見詰めていた。
「…………」
息を呑んで、俺は黙った。から告げられる言葉を、ただ大人しく待つ。
「先輩が考え事してる間、私だってず〜っと、ほっぽらかしなんだよ！」
は怒ったように話すと、テーブル面を両手で叩いた。
「？！」
俄かに起こった騒がしい音に、俺は目が点になる。
「しかも、この部屋には……私と大石先輩だけしかいないのに！！」
悔しさがこもる声で話すを見た俺は、彼女が言わんとする意味をやっと理解出来た。
初めて広瀬さんと２人だけで手塚を見送った日の俺は、酷く重い気持ちで居た。それが少し嫌で、空港への見送りの後、儀式に近い気持ちでと会い、気を紛らわせた。そんな俺の気持ちに応えるように、何も言わず、何もなかった様に振舞う彼女が、傍に居てくれた。
――あの日以来、いつも……そうだった。
「……あ……」
マヌケな声を漏らした俺の目の前で、は立ち上がると拳を握って訴える。
「隔てられる距離は、空間だけじゃないよ！ 心だって……っ！！」
これ以上は我慢ならない、と言いたいほどに声を荒げるの様子に、俺は慌てて腰を上げ、彼女へと近寄る。
「……ごめん」
短く謝罪し、怒る彼女を宥めるように抱き寄せる俺の腕が勢い良く払われた。
パシリ、と派手な音が室内に響く。
「……やっ！」
は短い拒絶の言葉で、俺が近付くのを阻止する。
「ごめん！」
やや力づくでの左腕を掴み、抱き締め、頬を寄せようとする俺の胸元を、彼女は右腕で力一杯押し戻す。
「……ヤダッ！」
の様子は大人しくなるどころか、更に激しい抵抗を見せた。 きつい口調で俺を拒絶する言葉を吐き出したと同時に、拳を握る右腕を勢いつけ、振り上げた彼女。
危ないことは百も承知だったが、避けてはいけない気がした俺は、からの制裁を甘んじて受けた。彼女の拳が、綺麗に俺の顎下を捉える。
「い……ッ！」
今度は、ガッと硬い音と、俺の短い呻き声が室内で響いた。 を掴んでいた手を放した俺は、その手で殴られた箇所を押さえる。ジンジンと響く痛みを和らげるようにさする俺の目の前で、複雑な顔をするが居る。俺を殴ったことによって、幾分の怒りの熱は冷めたようだ。しかし、それと同時に、夢中で殴ってしまった事実を目の当たりにし、彼女は申し訳なさそうな眼差しで俺を見た。
「…………」
痛みが続く顎下を撫で続ける情けない姿で、俺は優しくに声をかける。
「…………」
彼女は俺から目を背けると、その場に黙ってしゃがみ込んだ。
その背中が、酷く小さく見える。
「！」
厳しい口調で呼びかけると、さらに心を閉ざすように、は背中を丸めた。
ここまで、頑なな態度をとられたことの無かった俺は、さすがに凹む。
そして、俄かに焦りが生じ始めた。
どうすれば、もう1度、自分と向き合ってくれるのだろうか？
俺は、途方に暮れる。
これが、”心の隔たり”。
静かな部屋に、向き合わない２人。
どんなに必死になったところで、何もかもが空回り。
こんなに近くに居る俺へと、何も応えてくれない彼女。
きっと、これがの”待たされる”ということだ。
相手の心が自分の心と向き合ってくれるまで、自分へ向けられるまで待たされる怖いほど静かで、とても孤独な時間――。
未だ、途切れることなくジンジンとする痛みが、彼女の胸の痛みなのだろうかと思うと、ただ切なかった。
俺は小さくなった背を眺め、の背後で静かに床へと腰を下ろす。
「……俺、淋しいよ」
静まり返る自室で、ゆっくりと口を開いた。
「…………」
ポツリと言った俺の言葉に振り返ったへと、両手を広げて見せ、尋ねる。
「淋しいよ、。……あと、どれぐらい待ったら良いんだい？」
「…………私、先輩より、もっともっと淋しかった！」
口元をへの字にしたが、絞り出すような声で言う。
その言葉の重さに、俺は項垂れた。
「ごめん……」
ポツリと、謝る事しか出来ない自分がもどかしい。
小さく丸まる背中を、どうして俺は気付いてやれなかったんだろう……。
そう、こんなにも近くに居たのに……。
いつも、俺の傍らで彼女は、ただじっとこうして居たんじゃないか？
淋しいと思いながらも文句すら言わずに、ただ、ひたすら膝を抱えて……。
「私のほうが、先輩よりも、ずっとずっと長い時間１人だった！」
背を向けたまま話すの背に、俺は頭を下げる。
「そう、だよな……ごめん！」
誰かを思って悩む俺の傍で、彼女はどんな気持ちで居たんだろうか？
本当なら、いつだって自分が１番であって欲しいと思って当然だろう。
それにには、その権利が充分にある。
自分の傍らから、”距離が” ”心が”離れてしまった者が、再び戻るのを待つ淋しさと孤独を抱えていた彼女達。
俺は、ずっと見てきた。
手塚が傍を離れる時の、広瀬さんの表情を――。
あれほどの悲しい横顔を、も抱えていたんだ。
手塚が待つ者を持つ身であると同時に、俺も待つ者を持つ身であるんだと、気付かないといけなかったんだな……。
一体、俺はどれほどの我慢をさせていたんだろう。
……甘えたがりなに。
「……わ、わたし……っ！！」
今まで背を向けていたが、不意に振り向いた。その大きな瞳は、うさぎの目のように赤く、涙で潤んでいる。そんなに、俺は目を細めて、ひどく優しく微笑んで話す。
「待たせて悪かった。……こんなに近くにいたのに、さ」
「……お、大石先輩……いつも……待ってたんだよぅ〜……」
柔らかな彼女が両手を伸ばし、俺の首元へと必死にしがみついた。
「……あぁ。待ってくれて、ありがとうな」
ぎゅっとしがみつくの背を、俺はただ優しく撫でる。
俺がどこか明後日の方向を見ていても、傍らでじっと待ってくれる彼女が、とても愛しい。
広瀬さんが手塚の帰国を1人待つのと同じように、もまた、こうして俺が彼女と向き合えるようになるまでの時間を、１人で待っていたんだ。
俺はいつもいろいろと考え過ぎて、たまに大切なものを見落としてしまう。
これからは、気をつけないといけないよな。
ぎゅ〜っと一生懸命にしがみついているの旋毛へと、俺は頬を寄せた。
「、まだ……淋しいかい？」
心の隔たりと、時間を埋めるように抱きついているの体を、少し強く抱き返しながら問いかけた。
「さっきは、ごめんなさい。もう、淋しくないです。……それよりも」
俺の首へと回していた両腕を解き、少し俯いたが答える。謝ったが、そっと俺の顎下に優しく触れた。先程まで痛んだ箇所ではあったが、すでに痛みは引いている。俺としては、”の手も痛かっただろうに……”とも思うのだが、それよりも、彼女が話そうとして言いよどんだ言葉が気にかかる。
「……どうした？」
話し難そうな表情をし、俯いているを覗き込んだ俺は、彼女の頬へ右手を添え、ゆっくりと話しかけた。
「その……広瀬先輩にも、こうやって慰めるんですか？」
”ちょっと嫌だな”と、言いたげな表情をして問う。俺と目を合わせた途端、自分が言った言葉を情けなく思ったのか、は視線を落ち着きなく漂わせる。
もしかして、この様子は……ヤキモチ、かな？
不謹慎だと思いながらも、俺の口元は少しだけゆるむ。
「まさか！ ……黙って隣に立って、彼女の涙が止むのを待つだけだ」
「…………」
俺が話すのを黙って聞いているだが、その眼差しは疑いを含む。
がぶーたれた可愛くない表情で居るのは、人が良すぎる俺の行動を考えてのことだろう。そう思われても仕方がないところは、俺の性格的な部分において、確かにある。しかし、手塚やに後ろめたい感情を持つ気にはなれない。
少し困り顔をして見せた俺は、の頭を右手で一撫でする。
「まるで２人の恋の行方に居合わせる立会人さ。……それが俺の役目だよ」
そう、あの２人の恋の行方を見届けるのが、俺の役割。
１つずつ積み重ねる互いの想いが永遠となるのを見守るのが、俺の役目。
「何だか……神父様みたいですね」
は俺の表情を見詰め、首を左へ倒してクスリと笑う。
――神父様、か。
言葉の響きとしては、嫌いじゃないな。
だけど、そんな大層な感じでもないさ。俺は、ただの男だし……。
手塚も神のようであっても、彼女の前では１人の男でしかない。
……しかも、俺以上に、かなり不器用な男だ。
俺はの言葉に苦笑いして、彼女の身体を抱き寄せると、優しい香りがふわりと香る。 女の子特有の良い香りに俺は目を細め、の頬に自分のものを近づけた。
「そんなんじゃないさ。……それに俺は、神に仕えるよりも、大事な娘に仕えるので精一杯だ。それに神父様では、こんなコト……出来ないしな」
に話した俺は、彼女の長い髪を右手で梳く。
「こんなこと……って？」
きょとんとしているだろう顔が容易に解る声で俺へと尋ね返す。俺は、そんなの耳元から首筋へと唇をゆるやかに滑らせる。
「ぎゃあ！！」
「今更、そんなに驚くことでもだろう？」
面白いほどに素早い反応で、慌てて首元を押さえるに、俺は何事もなかったような、しれっとした態度で話した。
「お、驚くもん！ ……エッチ！！」
顔を真っ赤にして、アワアワとする俺の彼女。
俺の行動は、そんなに驚くようなものだったのかな？
……まぁ、いつもなら俺がアワアワとさせられるほうだが、今日はどうやら俺の優勢らしい。
それよりも、は見ていて飽きないというか、相変わらず可愛いというか。
……はは、参ったな。
大きな瞳をキョロキョロさせるの額に、自分の額をあて視線を合わせた俺は、ニッと口端を吊り上げ、意地悪く笑って言う。
「……それじゃ、エッチでいいよ」
「！！！」
俺の言葉を聞いたは、声にならないほどの驚き顔を俺へと見せた。
魚のようにパクパクと動かす可愛い彼女の唇を、俺はやんわりと塞いで、そのまま床上へと２人抱き合う格好で身体を横たえた。
「やぁ……ん。あぁ……」
恥ずかしげな表情で愛らしい声を零す自分の恋人を見下ろしながら、俺は彼女の肩から脇腹のラインに手をゆっくりと這わす。壊れないように、傷付けないように、そっと優しく。触れ合える心地よさを、も、俺も、いつまでも覚えてられるように―ー。
「……」
先程まで脇腹あたりを這わせていた手を、彼女の胸の丘へと移す。
柔らかく跳ねて応えるの身体へ俺は唇を寄せ、彼女の名を囁いた。
「……んっ。あ……っ」
赤く染まる頬と、弱々しく下がる眉が可愛い恋人。
今にも泣き出しそうな顔に似た表情で、俺の二の腕へ細い両腕を絡める彼女。離れたくない、と語るようなの両腕へと、俺は視線を落とす。
「淋しくても……待っててくれよ」
高ぶる熱を持つ身体を重ね、の両腕に掴まっていないほうの腕を動かし、彼女の頬に触れて呟く。
恋人達の恋は、いつも神の手により、秤にかけられる。
この恋が本物であるか、否か……。
積み重ねてきた想いが、永遠となるに足り得るものか、否か……。
手塚と広瀬さんの恋も、と俺の恋も――。
の頬に触れた掌を離し、俺は瞼を伏せた。
「せ……ぁ、せん、ぱぁ……い？」
俺に組み敷かれるが、吐息交じりに甘えるような声で俺を呼ぶ。意識を手元に戻した俺は瞼を上げ、を見下ろす。彼女が、どこか不安げな様子で俺を見ていた。俺はを安心させるように柔らかな笑みを口元へ浮かべ、温かく滑らかな彼女の身体を両腕で優しく抱えた。
隙間がないぐらいに近付いたと俺の距離。俺は、可愛らしい彼女の唇へ、キスを１つ落として話しかける。
「必ず、の傍に……戻るから」
言葉に言葉を以って返さず、コクリと黙って頷いたが嬉しそうに笑っていた。
柔らかな肌を持つ身体を逃がさないように、しっかりと抱えた俺は、愛しい彼女の胸元へと己の唇を寄せ、静かに証を刻む。うっすらと浮かぶ赤い印へ舌を這わせ、熱を帯びる肌を長い時間重ね合った。
【この恋は、永遠だ】と、恋した誰もが、１度は必ず信じるはず。
永遠の恋など、本当は誰にでも訪れるチャンスは――ある。
”距離が”、”心が”、離れる今こそ、互いの想いが試される。
永遠の恋に足り得るだけの想いの強さが秘められているか、否か……。
立ちはだかる困難が、想いを成就するための糧となる。
”距離が”、”心が”、近付く今こそ、互いの想いが試される。
永遠の恋に足り得るだけの想いの願いが秘められているか、否か……。
常に立ちはだかる困難は、恋人達の恋に審判を下す。
神の手により、恋人達の恋は秤にかけられ、今も――その刻を待つ。
【END】