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今日は、とってもとっても大切な日。
私の大好きな、大好きな、アノ人の誕生日！
そうだよっ！大石先輩のお誕生日なんだ！！
う〜んと笑顔で、「おめでとうございます！」って、祝いたい。
大好きな人の命の輝きを、傍で祝ってあげたいの。
生まれてくれて、ありがとうって！
想い出になる瞬間を、２人で喜び分かち合うの。
う〜んと笑顔で、「おめでとうございます！」って、心から祝いたい。
大好きな人が生れ落ちたこの世界を、傍で喜び祝ってあげるの。
生まれてくれて、本当にありがとうって！
想い出になる瞬間に、２人の時間がそっと優しく混ざり合うから……。
この日ほど、世界が愛で満ちることは無い。
この日ほど、世界が幸せで満ちることは無い。
この日、命を授かった私の大好きな人！
生まれてきてくれて、ありがとう！！
そんなアナタの傍へと、私を遣わしてくれた神様へ、そっと手をあわせます。
愛しい人の命の輝き
私の小さな命の煌き
すべてのものを祝福し、胸の内で静かに祈るよ。
――おめでとう！この世に生を享けたアナタを、愛したすべてのもの達へ。
――おめでとう！アナタが居るこの時間を、慈愛に満ちた眼差しで愛するすべてのもの達へ。
神様、今日という名の１日に、感謝の祈りを捧げます。
それから、願いの祈りを捧げます。
天におわします、我が神よ。
私の愛しいアノ人が、どうぞ心健やかでいれますように。
私の愛しいアノ人が、いつも変わらず、私を傍に侍らすように。
アノ人の慈愛に満ちた眼差しを、優しく見詰め返せるように……。
我が想い、謳うように祈られよ。
我が神よ、祈りの歌を聴き給う。
「ハッピーバースデーです！ 大石先輩！！」
いつも元気な私が、今日は一段と大きな声を出してみる。
”だって、だって！大好きな人の誕生日だもんね！”
今日の私は上機嫌。
”だって、自分の誕生日と同じぐらい嬉しくって仕方が無いの♪”
「……うん。……ありがとう」
柔らかな声音で大石先輩は答えてくれた。
少し照れているようで、恥ずかしそうに小さく笑う。
”そんな表情を見せてくれる大石先輩、大好きなんだ〜♪”
”だから、今日はいつもより、う〜んっと喜んでもらって、楽しんでもらうぞ！”
”気合は充分！ ヤル気も満タン！ 頑張るぞ〜！！”
心の内で、密かにファイティングポーズをしてみる。
「今年のお誕生日は、ちょっと去年と違うんですよ！」
これから大石先輩がどんな表情を見せてくれるのか、それをとっても楽しみにする私の声は、大いに弾んでいる。今日という特別な日だからこそ、なんだか余計にウズウズしてしまう。
優しい三日月の形の瞳に、優しさを宿した眼差しで、私へと笑いかける大好きな人。
「……へぇ〜？ どのヘンが違うんだい？」
その声に答えるように、私は手に持つ大きな紙袋をガサゴソと探り、先輩の目の前で大きな箱を取り出す。
「これが、今年のプレゼントですよ！ プールに連れて行ってくださいね？」
大石先輩へと謎かけをするように話す私。
ズイッと先輩の目の前へと差し出した大きな箱は、私からのプレゼント。
「ありがとう！ ……でも、この箱は大きいな」
プレゼントを受取ってくれた大石先輩は、箱を持って中身を考えているみたい。
”今年のプレゼントは、ちょっと奮発してるんだよねぇ〜……”
大石先輩の様子を、私はただ笑って眺める。
「今年は、熱帯魚関連のプレゼントじゃなさそうだなぁ〜……？」
どうやら、去年手渡したプレゼントとの関連性を考えたらしい。大石先輩は、未だ少し悩んでいる。
そんな大好きな先輩へ、ちょっとだけプレゼントの中身のヒントを教える。
「はい！ 毎年似たものじゃ、楽しくないでしょ？ それに今年は、ちょっとヒネリましたよ」
気合と自信に満ちた表情で、私は大石先輩の顔を覗き込んだ。
”今日のプレゼントは、絶対に大石先輩が大喜びしてくれるはず！！ 自信あるもんね♪”
「……ヒネリ？」
疑うような眼差しを私へと向け、大石先輩がプレゼントの封を解く。薄いグリーンのシンプルな箱が包みから姿を現し、その蓋を開いた。空間を埋める紙を除けながら、中身を探っている。
――ガササ……。
「……ん？」
大石先輩が小さな声を出す。
”……お？ 大石先輩には、もう解っちゃったのかな？”
手に触れた感触に覚えがあるらしい大石先輩は、私の謎かけの答えを見つけたようだ。
”ふふっ。でも、本当にお楽しみなのは、ここからだったりするのだ！”
呑気な笑いをする大石先輩が、プレゼントをゆっくりと箱から引き上げ、その場で固まった。
”わお！ やったね♪ ……まずは、ビックリさせることは成功したみたい！”
大石先輩の頬が、ほんのりと赤味を帯びる。
「……これ、のだろ？ どういう意味だよ！」
驚きに満ちた声と表情をする大石先輩の右手が持つものは、紫色のドット柄の女性用水着の生地だ。
そう、大好きな先輩は、なかなか読みが鋭い！
その紫色のドット柄の水着は、私が着ようと思っている水着だったりする。
”実は、今年の流行色を取り入れて、若々しい水玉模様を選んだんだ〜！”
「あは♪ それ、可愛い？」
早く褒めて欲しくって、大石先輩の顔をニコニコと覗き込む私。
だけど、そんな私の期待を裏切り、大きく息を吐き出した先輩が私の顔をチラリと眺める。
更に、いつまでたっても、大石先輩は水着のことを何も話してくれない。
”……おかしいなぁ〜？ なんで、黙っちゃうんだろう……？”
水着を褒めてくれない大石先輩へ、ちょっと拗ねた声で私は話しかける。
「……今年、紫色が流行りらしいですよ？ 女の子らしい、水玉柄にしたのはダメですかぁ？」
私は真剣な眼差しを大石先輩へと向け、両手を握る。
”絶対、絶対、喜んでくれるよね？！”
「ダメも、何も……っ！ 俺が女性モノを着る訳が無いだろう！！」
困った顔で勢い良く話す大石先輩を、私は思わず見詰めた。
”ありゃ？ ……ひょっとして大石先輩ってば、自分が着ないといけないと思ったのかな……？”
大石先輩の冷たい視線を感じつつも、先程から何も言わない理由を悟った私。納得が出来て、ポンと手を打つ。
「やだなぁ〜！ それは、私がちゃんと着ますよぉ〜？」
「あはは〜！」と、のんびりとした笑い声をあげて私は話した。
「それが、何で俺へのプレゼントになるんだ……」
考えることにドッと疲れたと言いたげな吐息を零した大石先輩を、私は眺めてクスクスと笑う。
そして、私の目の前でこめかみを押さえて悩ましげな表情で居る大石先輩へ、ニヤリと笑って言葉を告げる。
「ねぇ、大石先輩♪ ……昔、『水着はビキニが良い』って言ってましたよねぇ？」
”忘れたなんて言わせませんよ？ ……Jr．選抜の合宿で言ったのを覚えてますからね！”
今日のプレゼントは、それが布石となることに、どうやら当の本人は気付いてないらしい。
きょとんとする大石先輩を目の前に、私は笑ったまま話を続ける。
「今日は大石先輩のお誕生日ですから、久しぶりに大人な水着に新調してみたんです！」
そう話した後、私は含んだ笑いを大石先輩へと見せる。
「……はぁ……？」
話の流れを完全に読めない大石先輩が、私へと困り顔をして見せる。
”鋭いようで、ちょっとニブイ先輩が可愛い気もしちゃうなぁ〜……♪”
ふふっと笑った私は顔を締め、真剣な顔つきをする。
「さぁ、先輩！ リクエストしてください！！」
思い切って両手を広げた私を、驚愕の顔つきで見詰める大石先輩。
「リ、リクエストしてください……？？！」
私の目の前で、困惑する大石先輩が素っ頓狂な声を上げ、言葉を復唱した。
「ささ、大石先輩！ 私に、《この水着を着て見せて》って、お願いしてみて下さい♪」
”いつもお願いばかりする私だけど、今日は大石先輩のお願いを叶えてあげようと思うんだ！ ……可愛い彼女とプールに行くなら、やっぱり可愛い水着が必要でしょ？”
ニコニコニコ〜と満面の笑みで、大石先輩を見詰める。
「………………」
けれども、大石先輩の口は、岩のように固まって動かない。
「どうしたんですかぁ？ さ、早く言ってくださいよ〜っ！！」
貝のように口を噤んだ大石先輩の両腕をつかんだ私は、言葉をねだる。
”ひょっとして、恥ずかしいのかな？ ……先輩、恥ずかしがり屋さんだもんね！”
そう考えた私の目の前で、大石先輩が急にガックリと項垂れ、両膝を床へ着く。
「ちょ……っ！ 何なんですか、そのあからさまな態度は……っ！！」
私は項垂れる大好きな先輩の腕を手放すと、立ったままで先輩を見下ろす。
”え〜？ ……まさか、全然嬉しくないの〜？！ こんなにイロイロ考えたのに？”
「大石先輩が今年もプールに行こうって誘ってくれたから水着も新調したのにぃ……」
私の話す言葉が、少し震えた。
絶対に嬉しがるだろうと思っていただけに、あまりにつれない大石先輩の態度に切なさが募る。悲しく揺れる瞳で、大石先輩を見下ろし続けた。
「確かに、プールへ行こうとは言ったけど、こんな企画で祝って欲しいとは言ってないよ」
両膝を着いた姿勢の大石先輩が、真剣な眼差しで私を見上げてくる。
確かに、このサプライズ企画は私が発案したもの。
大好きな先輩が、プールに誘ってくれた。それが嬉しくって、嬉しくって……。
だから、プールに行っても、もっと楽しくなれるようにって、プレゼントを一生懸命選んだの。
どうしても、どうしても、大石先輩を喜ばせてあげたかったんだもん……。
でも、目の前で自分を見上げる姿勢で居る大石先輩の表情は、あまり嬉しそうじゃない……。
私の眉間に深い皺が刻まれる。
「大石先輩が凄く喜んでくれるようにって、たくさん考えたのにぃ〜……」
残念だなって思う声で語る言葉が悲しみを含み、沈んだ表情と伏目がちになる私の瞳。
”おニューの水着で先輩の隣に並んで、誰よりも１番可愛いって思って欲しかったんだもん……。”
”可愛い彼女で、嬉しいなって……思って欲しかったんだもん……。”
「あっ！ いや……」
慌てて大石先輩が、私に声をかけた。
”……本当は、ちょっと嬉しかったりするの？”
希望の光を見出した私は、パアァ……と明るく笑って大好きな人へと尋ねる。
「それじゃ、言ってくれますか？ 《着てちょうだい》って♪」
”なんだぁ〜！ やっぱり嬉しいんだ♪ 恥ずかしかったんだね、先輩ってば！”
ランランと輝く双眸で、大好きな先輩へ期待を込めて見詰める。
「あ、いや……」
お前が思っているのとは違うよ、と言わんばかりの大石先輩表情と、その口調。
「……ち、違うんですかぁ〜……？」
私にとっては、意気消沈なんてものじゃなかった。谷底を這い上がってきた獅子の子を再度蹴り落とすような、切ない音を含む言葉と、その表情。私は両肩を落とし、この世の終わりを見たような表情でガックリと項垂れる。それから、ちょっぴり私の視界が曇り出す。
「あの、な……。その……」
慰めの言葉を探すような大石先輩の声を、私は黙って聞く。
しかし、大石先輩は言葉を探すのを止めると、１度大きく深呼吸した。
黙って私を見上げると、手に持っていた女性用水着を、おずおずと私へ差し出す。
「こ、これっ！！ ……き、着て下さい！！」
恥ずかしそうに、半ば勢い良くヤケクソに言った大石先輩。
言い切った後、満足げな表情を浮かべ、私を見る。
”そんな風に言ってくれても嬉しくないよ？ ……何だか、嫌そうに聞こえるよ？”
本当に嬉しい時の大石先輩の表情は知ってる。
だから、無理して言った言葉だって、すぐに解ってしまう。
「……そんな言い方って……。水着選ぶのに、半日もかかったのに……」
”そうだよ。……先輩のことばっかり考えて、あれもダメ、これもダメ、こっちが良いかな？ あっちも良いなぁ！って選んだんだよぅ……？”
「えっ？！」
私からのダメ出しが意外だったのか、驚いた声を短く上げた赤い顔の大石先輩。
”イヤだからって……そんな風に、勢いで誤魔化さないで欲しいよ！ ……酷いよ〜っ！！ 嘘の気持ちを言うなんて、優しさじゃないよ！！”
悔しさと悲しさが胸に込み上がると、眉間をギュッと寄せる。
「えっ、？！」
私の名前を呼びかけながら大きな手が、腕を掴まえる。
けれども、その手に掴まりたくなかった私は、大きな手を振り払い、両手を腰にあてて大石先輩を見下ろす。
「大石先輩ってば、プールに行くのに、カノジョが可愛い水着をつけるのはイヤなんですか？！」
腰にあてていた両手を、胸の前に組みかえた姿勢で大好きな先輩を睨んでみる。
”本当にイヤなの？ 実は嬉しいの？ ハッキリして欲しいよ！ そうじゃなきゃ、もう絶交だよ！！”
ムッとする私の顔を見詰め、”誰の真似をしてるんだよ、お前……”と、言いたげな表情の大石先輩。
”……でも、そんな顔しても教えてあげませんよ！ 私、ちょっと怒ってますからねっ！！”
仁王像のような私の顔をあんぐりと見上げる大石先輩から、視線を外して、プィっと明後日の方を向く。
視線を外した私の耳に、ボソリと呟く声が聞こえる。
「可愛い水着は……イヤじゃない……」
”……何だ、やっぱりイヤじゃないんだ。……でも、それなら、どうして話してくれないの？”
ちょっぴり納得できない私は、口を尖らせて言ってみる。
「それじゃ、ちゃんと《この水着を着て欲しい！》って気持ちを込めて言ってくれなきゃ、伝わりませんよっ！！」
「……うっ！」
大石先輩ってば、私に図星をさされたようで、少し言葉を詰まらせる。小さな溜息をついた大石先輩が、半ば白状するような口調で話し出す。
「あの、さ。……水着を着てくれるのは、嬉しいよ。……だけどな、それをお願いするのは、ちょっと……。その……、恥ずかしいよ」
真っ赤に熟れたトマトのような顔で、困ったように笑って話した大石先輩。やっと、本物の大石先輩が見えてきた。
大石先輩の顔を見詰めて、私はニッコリと笑い返す。
「大丈夫ですよ？ 今は、私と先輩の２人だけですから！」
”そうだよ。今、この大切な時間を、たった２人で貸し切ってるんだから……。”
大好きな先輩と私の、たった２人で……。
私の表情を凝視する大石先輩が、何かを悟ったような顔つきをして呟く。
「あ、……」
大切な言葉を話すときは、必ず穏やかな優しい顔つきに戻る先輩。
それを、私は……知っている。
「はい！ 何ですか？♪」
”心の中を覗かせてくれる先輩の表情は、ちゃ〜んと知ってるもんね♪”
じ〜っと大人しく先輩を見詰めるけど、やっぱり嬉しくって私の顔がゆるんじゃう。
早く、先輩のおねだりが聞きたくって我慢できない。
まるで、餌を目の前にし、”待て！”と言われる仔犬のような気分だ。
「……この水着を、着て……欲しいよ。……ダメ、かな？」
困ったような目をしながらも、それでいて、とっても甘く優しい声音のおねだり。
”……すっごく可愛い〜っ！！ ……いいもの見ちゃった♪”
恥ずかしがってる大好きな大石先輩が、何だか小さな子供のように思えた。
「はい！ 良いですよ〜♪」
”嬉しいな！ やっぱり、大好きな人にされる《お願い》って、くすぐったいけど凄く凄く嬉しいな♪ それに、やっぱりビキニが良いんだね〜♪”
嬉しい気持ちを早く伝えたくって、大好きな先輩へと、ぴょこん！と、私は勢いつけて抱きついた。
”……あ、すっかり忘れてたや！”
プレゼントを出した大きな紙袋を、再度自分の傍へと引き寄せて、私はその袋の中を探る。
――ガサササ……ッ。
”そう、そう！ これ、これ！！”
「それじゃ、こっちの水着は先輩が着てくださいね？」
私は忘れていたものを袋から取り出し、大石先輩の目の前でかざしたのは、男性用水着。
それも、半パンタイプでサイドにラインが２本入ったデザインのもの。
「大石先輩、以前競泳用のビキニタイプだったでしょ？ でも、あれはお姉さん達の視線を集めるからダメですよ？ ……だから、コレ！はい！！」
”そうなの！ 大石先輩は、ちょっとだけイイ男だから、すぐに視線を集めちゃうんだよね！ だから、なるべくダサくしなくちゃ！ ……ね？”
私は先輩の手から紫色のドット柄の女性水着を交換するようにして、男性水着を持たせた。
大石先輩は私から渡された男性用水着を、しばし無言で見詰めていたが、ややして、何かに気付いた顔をすると口を開いた。
「……ちょっと待て！ お前もワンピースの水着にしないと、ダメじゃないか！」
すっかり冷静沈着な顔に戻った大石先輩がそう言うと、私の持つドット柄の水着をつかむ。
「え〜〜っ！！ どうしてですか？！ 子供っぽいから、ヤダよ〜〜！！！」
私の水着をつかむ大好きな先輩の手の甲を、ぺちん！と叩いて、私は抗議する。
「俺が半パンなのに、何でわざわざ視線を集めるビキニを、お前が着る必要あるんだよ！ ……おかしいだろう？！」
真剣な顔つきで、大石先輩は首を縦に忙しく振っている。
”……ん？ ……それって、もしかして、もしかすると……？”
世紀の大発見と言いたくなるような思いつきに、「あはっ！」と思わず笑いが込み上げる。
「……ひょっとして、ヤキモチですか？♪」
嬉しくて、嬉しくて、覗き込むようにして、大好きな先輩へと尋ねる。
「違うよ！ 他の人には、見せたくないだけだっ！！」
私の言葉に素早く答えて、再度ドット柄の水着へ手をかけた大石先輩が、私から水着を奪い上げる。
水着を取り上げられた私は、顎に指先をあて、小首を傾げた。
”自分は良くても、他人はダメって……言うんでしょう？”
「だから、それが……ヤキモチだと思うんですけどぉ〜？」
”……うん、それって、ヤキモチだよねぇ〜！”
「どうでも良いよ！ ……とにかく、プールでは着るなよ？」
説明することを完全に端折った大石先輩が、私の目を見て念を押すと、ドット柄の女性用水着を箱の中へと戻そうとしている。その様子を眺めながら、私は尋ねる。
「それって……。大石先輩専用ってコトですかぁ〜……？」
自分で言った言葉を、もう１度考えてみる。
”専用ということは、大石先輩と２人のときだけに着ても良い水着ってことになるよね。でも、２人きりだけ……ということは、場所が限られるワケで……。”
首を小さく傾げ、さらに考える。
”例えば、この部屋の中で、水着ショー……とか？”
考え込んだ私の目の前で、「ははっ！」と何やら楽しげな笑い声を出す大石先輩。その顔が、ちょっと可愛いかったりもする。
”何かエッチなことでも考えてたのかな？ 顔がニヤけてるよねぇ〜！”
「……きゃん、エッチ！！♪」
「あはっ！」と笑って両手で胸元を隠した私が、大きな瞳で大石先輩を覗き込む。
夢から覚めたような顔をした大石先輩が、驚きの声を上げる。
「なっ……？！ お前、何を考えてたんだ〜〜！！」
天地がひっくり返りそうな声を上げた大好きな先輩が、赤く染まる頬を見せ、慌てて水着を箱の中へと押し込んでいる。
「お前とは、２度と泳ぎに行かないぞッ！！」
水着を箱に押し込めた大石先輩は、勢い良く立ち上がり、座り込む私を見下ろして言う。こんな時の大石先輩は、やっぱり、ちょっとイジワルだ。
「えぇ〜っ！ それじゃあ、おニューの水着はいつ着て良いんですか〜？！」
”それじゃ、おニューの水着の出番は、当分お預けかぁ……。つまんないの！”
私は口を尖らせて言い、立ち上がった大石先輩を見上げた。
”でも、いいよ！ ……今日は特別だから、許してあげる♪”
クスッと笑って、私もすぐに立ち上がる。
「あのね、大石先輩！」
ニコッと笑いかけながら、私の大好きな先輩へ寄り添う。
「な、何だよ？ ……ビキニの件は、保留だぞ！」
「ゴホン……」と咳払いをした大石先輩が片目を閉じて言う。
「もう！ ……違いますよ……」
”プレゼントよりも大切なこと、ちゃんと伝えておかなくちゃね！”
急に大人しくなった私を、静かに見下ろす大石先輩。
その慈愛に満ちる愛しい瞳の輝きを覗き込む。
「……お誕生日、おめでとうございます。先輩が居てくれること、生まれてくれたことに感謝……です」
ちょっと大人な雰囲気で、優しく包んで祝ってあげたい。
世界で１番、大好きな人の誕生を、この世に無二の聖なる魂、煌く命を……。
優しい光を宿す瞳を細めた大石先輩。
いつもより、さらに優しく、嬉しそうに微笑んで言う。
「ありがとう……」
ぎゅっと抱きつく私を、先輩の腕がゆっくり包んだ。
その動きに瞼を閉じて、今日も私は祈りを捧げる。
今日という１日に、大好きなアナタとアナタの生母へ感謝しよう。
――ありがとう。
私のいる世界で生を享けた愛しい命、世界を彩る愛持つアナタへ。
――ありがとう。
私の生きるこの時間まで、アナタを育てた慈愛に満ちるアナタのマリアへ。
私の命の源へ
アナタの命の源へ
今日も神へと感謝を捧げ、胸の内で静かに祈ろう。
神様、今日という名の１日に、感謝の祈りを捧げます。
”一緒に在る幸せを、命授かる喜びを、大好きな人と分かち合える嬉しさを神様へ感謝します”
それから、願いの祈りを捧げます。
天におわします、我が神よ。
私の愛しいアナタが、いつも幸福でありますように。
私の愛しいアナタが、ずっと変わらず、私を愛でてくれますように。
アナタの慈愛に満ちた眼差しを、微笑み見詰め返せるように……。
我が想い、謳うように祈られよ。
我が神よ、祈りの歌を聴き給う。
【ＥＮＤ】