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いつもの他愛ない会話。いつもの帰宅路。
そして、辿り着くいつもの分かれ道。
――だけど、今日はいつもと違う。
手に持った小さな包み。
友達と勢いで買ってしまったチョコレート。
行き場が無いワケじゃない。
あげたい人は……決まってる。
少し勇気の足りない私に、良く似た小さな可愛い包み。
それでも……どうか、神様！
１粒、１粒に込めた特別なキモチが、甘い香りと一緒に伝わりますように……！！
――”特別なスキ”が、アナタへと届くように……。
乙女が祈りを込めるチョコレート。
大切なアノ人へ伝えたい恋心。
そう、今日はＳｐｅｃｉａｌ ｄａｙ！
Ｓｗｅｅｔ Ｓｗｅｅｔ Ｖａｌｅｎｔｉｎｅ’ｓ ｄａｙ !!
乙女達 皆が感じる恋の予感――。
「ちょっと驚いたような顔、してたな……」
ポツリと呟くと、白い息が私の目の前を過ぎる。
いつもの分かれ道で、先程別れた大石先輩を思い返す。
ちょっと驚いて、直ぐにいつもの表情に戻ると、それから、ふっ……と口元を緩めて優しく笑って。
優しい眼を見せてくれた。
「あげられて……良かったな」
――私の大好きな、大好きな、大石先輩。
「ありがとう……」
白い息に少し隠された大石先輩の笑顔。
でも、見なくても判る。
聞こえた声音が……いつも以上に、優しかったもん。
本当に嬉しそうに話してくれたお礼の言葉。
震えた手で、上手く笑えない顔で、拙い言葉で、手渡してみたバレンタイン・チョコレート。
恥ずかしくって、その場から逃げ出してしまったけど、逃げる足音と同じぐらいに高鳴った胸の音。
お父さんにあげたモノとも、小学生の頃に同級生にあげたモノとも、全然違ったチョコレート。
私が……子供じゃなくなったから？
私が……大人に近付いたから？
ううん……そんなのは、関係ないんだ。
きっと、先輩がトクベツなんだよ……。
――大石先輩が、私の”特別”……。
震えた手に、触れた大きな優しい手。
その指先が、とても温かくて……。
『ありがとう……』って笑う声音と表情。
それが、いつもよりも柔らかくって……。
”優しい”って言葉が、とても、とても、似合うアノ人。
だけど、笑った大石先輩の肩から掛かる学生鞄には――。
帰り際に見た、少し歪なカタチの学生鞄。
他の女の子達からも、貰ってたはずのチョコレート。
――甘さ漂う、好意の”印”……。
それでも……気付いて……。
それから……思い返して……。
１粒食べて、寒さと緊張で震えた指先、触れた手を。
１粒食べて、上目遣いで覗き込む、不安と嬉しさで揺れた双眸を。
１粒食べて、寒さと恥ずかしさに紅く染まった両頬を。
小さな包みを……紐解いて。
私の気持ちを……紐解いて。
アナタへの、すべてが特別のチョコレート。
ちいさな、ちいさな、私の勇気。
恋するキモチが、カタチになったチョコレート。
甘く薫って、特別なキモチを奏でて欲しい。
――そう、これが……きっと、恋のプレリュード。
【ＥＮＤ】