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風渡り、青少年の恋薫る。
可愛いキミの手を握り、春の気配に誘われて、影連れ立って歩む土手。
「……ねぇ、先輩？」
「……あのね、先輩！」
愛しきキミの話し声。
小鳥のさえずる声に似て、ちょっと耳を傾ける。
ちゃんと話は聞いてるさ。
心地よい声音を響かせ、キミが俺に呼びかける。
もっと話を聞きたくて、もっと声が聞きたくて。
ひたすら耳を傾ける。
可愛いキミの手をつなぎ、
流れる水面を覗き込み、肩寄せ合って立ち止まる。
「……でもね、先輩。」
「……だからね、先輩！」
愛しきキミの笑い声。
小鳥のさえずる声に似て、やっぱり耳を傾ける。
ちゃんと話は聞いてるさ。
弾んだ声音を響かせて、キミが俺へと呼びかける。
もっと話が聞きたくて、ずっと声が聞きたくて。
頷いては静かに笑い、キミの声へと耳傾ける。
「…………」
途端に黙る、お喋りなキミ。
止んだ小鳥のさえずりに、ちょっぴりガッカリした俺へ、大きな瞳が覗き込む。
目は口ほどにモノを言う。
”ねぇ、先輩？”
”あのね、先輩？”
キミと俺の真ん中で、震える空気の音がする。
さっきまで、聞こえたキミの声がする。
言いたい言葉のすべて、何となく聞こえた気がした。
小鳥のさえずりに似たキミの声。
俺への呼びかけ、聞こえた気がした。
「つかまえた！」
ギュッと引っ付いてくるキミが、あまりに無邪気で可愛くて。
どうやって、言葉にすれば良いんだろうか？
困った俺は、笑うしかない。
目は口ほどにモノを言う。
”ねぇ、先輩？”
”ねぇ、見せてくれるの？”
キミと俺の真ん中で、振れる心の音がする。
さっきから、愛情をせがむキミの声。
「甘えたなヤツだな……」
お決まりセリフを口にして、俺は笑ってキミを見る。
キミが、もっと特別な声で俺を呼ぶ。
キミが、もっと特別な声を俺へ聞かせる。
”あのね、先輩。……ずっと、ずっと傍に居たいの。”
”だからね、先輩。……いつも、いつも一緒がいいの。”
目は口ほどにモノを言う。
あまりにも、ストレートなキミの視線。
声にしなくても、聞こえてしまう。
言葉にしなくても、解ってしまう。
恋する小鳥のさえずりは、どうして、こうも素直なのかな？
あけっぴろげな愛情が、恥ずかしくってたまらない。
可愛いキミの手を導いて、傾きだした日の下で、
そよぐ春風に背を押され、恋を連れ添い、キミを見下ろす。
「ねぇ、先輩？」
「あのね、先輩！」
愛しいキミのねだり声。
小鳥のさえずる声に似て、やっぱり耳を傾ける。
ちゃんと話は聞いてるさ。
愛情含む声音を響かせ、キミが俺に呼びかける。
スキスキ光線を含む視線、目は口ほどにモノを言う。
”先輩、先輩、大石先輩！私ね、いつでも先輩がスキなんだ！！”
あまりにも、ストレート過ぎるキミの視線。
声にしなくても、聞こえてしまう。
言葉以外で、解ってしまう。
だから、俺……。
いつも解らないフリをするんだよ。
「どうかしたかい？」
お決まりのセリフを言ってから、困った顔して笑うんだ。
もっと俺の心をつかんで。
もっと俺の想いに気付いて。
「……大石先輩、ラブラブ……」
沈んだ小鳥のさえずりは、いつも俺を困らせる。
弾んだ声が聞きたいのに、愛情含んだ声を聞きたいのに。
キミと俺の真ん中で、悲しみ含んだ空気が震え、
小鳥は乙女の姿と化す。
「は？ らぶら……ぶ？」
俺の知ってる可愛い小鳥。
人の姿と化した途端、急に読めなくなったキミの気持ち。
拗ねた声音を響かせて、ほんのり紅差す頬膨らまし、
口を尖らせ言葉を語る。
「ラブがラブじゃ、嫌なんです！ ラブは、ラブラブが良いんですぅ〜〜！」
「あのなぁ、……」
恋する乙女のお喋りは、どうして、こうも素直なのかな？
あけっぴろげな愛情が、恥ずかし過ぎてたまらない。
声にしなくても、知ってるから。
言葉にしなくても、解ってるから。
あまりにも可愛い顔して、困らせるなよ。
はにかみ顔を見せるしかない。
キミと俺の真ん中で、想いの空気が震え出し、
ふたりの恋が雑じり合う。
風渡り、青少年へ恋薫る。
可愛いキミの手を導いて、黄昏時行く、恋の道。
【ＥＮＤ】