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小さな包みに込められた 乙女の祈り。
恋をかたどる 愛のスイーツ・チョコレート。
男なら、誰もが貰って嬉しいチョコレート。
そう、今日が年に１度のVarentine's Day！
お年頃な俺達のchocolate・anniversary！
小さな包みの封を解いたら、甘い香りの恋の呪文。
――そう、それが……きっと、恋のプレリュード。
いつもの他愛ない会話。いつもの帰宅路。
そして、辿り着くいつもの分かれ道。
――だけど、今日はどうやら、いつもと違う。
はねっかえりなアノ娘が俯き、ちらりと見上げる大きな瞳。
おしゃべりで元気な口が途端に止まり、寒さに紅く染まった両頬を、首をすくめてマフラーに隠す。
ほんの一瞬見せた、いつもと違う別の顔。
今日１日で何度も見てきた”女の子の表情”と、その”仕草”。
――まさか……、な。
ドキリと高鳴る胸の内。
目の前へ差し出された小さな包み。
彼女に似た可愛い包みのプレゼント。
恥ずかしそうな、ちょっと困った顔をして、照れた笑みを浮かべるアノ娘。
何となく、あげてみたいと思っただけだと解っていても、少しニヤつく、だらしのない俺の顔。
どうしようもなく、嬉しくて……。
でも、他の女の子達には申し訳なくて、複雑な気持ちを隠し、笑顔の仮面をアノ娘へ見せた。
帰り道、アノ娘は会話にうわの空。
時折、俺を見ては白い溜息を軽く吐く。
アノ娘が何を考えてるのか、気になった。
隠し歩いた歪なカタチの学生鞄。
きっと、気付いたに違いない。
だから、ずっと迷って……。
そして、ずっと黙って……。
やってきた運命の分かれ道――。
いつもと違う仮面をつけて、勇気を出した可愛いアノ娘。
俺は手を伸ばし、小さな勇気に触れてみた。
どうしようもなく、嬉しくて……。
込み上げる気持ちが零れ出て、素直な気持ちを隠さずに、素顔の笑みをアノ娘へ見せた。
「ありがとう……」
白い息、お礼の言葉と見えない気持ちに色をつけた。
”どうやって渡そうか……？”
悩んで、困った可愛いアノ娘。
そんなを思い返して、小さな勇気の封を解く。
を想って、封を解く。
１粒手に取り、はねっかえりが見せた乙女の仮面。
１粒手に取り、俺を見上げた大きな双眸。
１粒手に取り、恥ずかしそうに、ちょっと困った照れた笑み。
アノ娘のくれた気持ちが鼻先漂う、甘い匂い。
１粒が”好意”という名の、”恋の呪文”……。
口の中で溶け出せば、ふわりと広がるチョコレート。
口の中で溶け出せば、ふわりと広がる恋の味。
その香りに包まれて、アノ娘の姿を思い出す。
その粒を手にとって、アノ娘の声を思い出す。
小箱から、取り出されたチョコレート。
包みの開く音が奏でられ、刻まれていく甘い香りと恋の呪文。
――そう、ここからが……きっと、恋のプレリュード。
【ＥＮＤ】